【交差点】先人の知恵


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 日本人は、病気になると病院に行く。しかし、医療保険制度が確立していないインドネシアでは、病院にいくと高額な費用が掛かるため、まずは、伝統的な療法に頼ることが多い。
 伝統的な療法といってもさまざまで、祈祷(きとう)師に祈ってもらうシャーマニズム的なものから、薬草のようなものを調合した薬を飲む民間療法的なものまで、いろいろなものがある。
 多くは、まゆにつばをつけて、効くような気になるのでは? と思うが、一つ気に入っているものがある。それは「クロッキン」だ。メンソール系の塗り薬を塗り、コインの周りのギザギザを使って、首から尻部の上まで背骨を中心に、放射線状にこすっていくのだ。インドネシアでは「風邪をひく」のを「風邪が入る」と表現する。その入った悪い風邪をこすり出すのだそうだ。
 最初は痛がゆさと腫(は)れで体が熱くなり、やがてそれが冷えていく。大体気持ちよくなって寝入ってしまっている。その腫れが消えるころには、風邪はすっかりよくなっているのである。インドネシアに古くから伝わる先人の知恵のようなものだろうと受け止めている。
 街できれいな女性に声を掛けようとした際、彼女の首もとから背中にかけてクロッキンの跡がのぞく。「風邪をひいているから誘っても駄目だ」と、冷静な計算とも、ワイフが怖いゆえの言い訳ともいいがたい判断で、自分を納得させる。クロッキンは病疫から人々を守り、女性の誘惑から遠避け、家庭不和の元を断つ効果もあったらしい。インドネシアの先人は、あなどれない。
 (太田勉・在インドネシア企業経営)