『大田昌秀が説く沖縄戦の深層』 今の日本への強い危機感


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『大田昌秀が説く沖縄戦の深層』大田昌秀著 高文研・1600円

 「次に戦争があれば真っ先に攻撃されるのは基地のある沖縄。真っ先に戦場に出されるのは皆さんのような若者だ」、ある高校で開かれた講演会で、著者は生徒たちに話しかけた。生徒たちと同じ年ごろで鉄血勤皇師範隊にとられ、沖縄戦で九死に一生を得た。いまの日本に強い危機感を持っているようだ。

 著者はこの本で、政府が憲法の解釈を変えて集団的自衛権を行使すべく閣議決定したことにふれ、「日本は再び戦争をする方向に向かいつつある」と指摘している。
 著者は、戦場体験と長年の平和研究の積み重ねから導き出した沖縄戦の教訓を若い世代に向けて書き留めた。その教訓は、「軍隊は非戦闘員を犠牲にする」「指導者は民衆の信頼を裏切る」「老人、子ども、女性、弱者が一番過酷な運命に陥る」などである。
 著者は沖縄戦最大の教訓として「戦争は防がなければならない」ことをあげている。いったん戦争になってしまえば、いかなる対策も無意味で住民は砲弾の餌食になるよりほかはない、という。「民衆にとって軍備は無意味である」と言い切る。日本は残存兵力800万人近くを擁しながら無条件降伏に追い込まれた。現在、自衛隊員約22万5000人。日本防衛のため軍備増強が必要と主張する人たちはいったいいくら増やせば安心できるのか、と疑問を投げかける。
 教訓はシンプルである。しかし、その一つ一つを裏付ける出来事、資料、証言、考察は詳細で緻密。本の大部分を占めている。日本が戦争に向かう過程、それに組み込まれていく沖縄、皇民化教育、政府の戦争政策の旗振り役を担う知識層やメディアなど、いまの日本の状況とも重なる。民衆の安全と平和を守る立場から国の軍事政策の愚かさを厳しく批判している。
 69年前に沖縄という一地域で起こった「戦争」の体験と研究から得られた教訓だが、世界のどこでも通用する普遍的な価値を持っている。(高嶺朝一・元新聞記者)
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 おおた・まさひで 1925年、沖縄県久米島生まれ。琉球大学教授、沖縄県知事、参議院議員などを経て現在、沖縄国際平和研究所理事長。著書は沖縄戦、平和、民衆意識などをテーマに80冊を超える。

大田昌秀が説く 沖縄戦の深層
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