『残されたもの、伝えられたこと』 名物編集長による人物列伝


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『残されたもの、伝えられたこと』矢崎泰久著 街から舎・1750円

 「話の特集」、矢崎泰久と聞いてピンとくる人たちが沖縄にどのくらいいるのだろうか。矢崎氏は現在でも琉球新報・文化欄で「いりにこち」という連載を中山千夏氏と交代で執筆しているジャーナリストだ。日本のサブカル文化を牽引(けんいん)してきた「話の特集」の編集長を30年にわたってつとめてきた名物編集者でもある。

 雑誌自体は1995年に休刊となったが、矢崎氏は80歳を迎えた今日もジャーナリストとしての発言や執筆活動を精力的に続けている。
 その矢崎氏の近刊が、「残されたもの、伝えられたこと」(街から舎)である。装丁を変えた再刊本「あの人がいた」も同時に刊行された。本の帯には「伝説的雑誌『話の特集』元編集長・矢崎泰久が活写した1960年代カウンターカルチュア・ムーブメントの内幕と各文化戦線の旗手15人の鮮烈な列伝」とある。2冊あわせると、31人の文化人の知られざるエピソードで綴(つづ)られた人物像が興味深く、懐かしく描かれている。
 一世を風靡(ふうび)した雑誌だけに、その交友は多岐にわたっている。31人の名前を挙げるだけでも、日本のサブカル文化の担い手たちの人脈図ができるほどである。「話の特集」の創刊は1965年。筆者は地方で高校生活を送っていた。先達者である矢崎氏に学びつつ、筆者が「噂の真相」を編集発行人として立ち上げたのが79年。遅れてきた世代ではあるが、矢崎氏が取り上げた31人の中には面識があり、仕事がらみの付き合いがあった人物も多い。従って、筆者と面識も交友もなかった文化人のことは矢崎氏が描いた新刊本が大いに参考になるし、筆者が深くつきあったことのある竹中労、若松考二、筑紫哲也といった人物に対する評価は微妙に違う。矢崎氏は辛口を売りにする評論家でもあった証だろう。
 矢崎氏の新刊に関しても、あくまでも〈矢崎泰久〉という個性派編集長の視点から見た人物列伝である。その点を踏まえれば、サブカル文化人たちの生きざまに関しても新たな発見も数多かった。「文化人研究」の資料としては不可欠のおススメ本である。(岡留安則・ジャーナリスト)
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 やざき・やすひさ 1933年東京生まれ。新聞記者を経て、65年に「話の特集」を創刊。95年までの30年間、編集長と社主を兼務。現在はフリージャーナリストとして執筆活動を続けている。

残されたもの、伝えられたことー60年代に蜂起した文革者列伝
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