【島人の目】冷夏の憂鬱


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 昨年、僕は「イギリスみたいなイタリアの夏」という題で冷夏のイタリアをこのコラムで紹介した。照り付ける太陽があまり見られなかったこの国らしくない夏の風情が、若いころに住んでいた英国のそれに似ていると思ったのだ。ところが、イタリアはことしも冷夏。しかも昨年を大きく上回る降水を伴った。

 大雨の状況を具体的に言うと、例えば僕は自分の菜園の水やりを6月末から現在まで一度も行っていない。乾燥したイタリアでは、例年なら6月~8月の3カ月間はほぼ毎日水をかけないと野菜はうまく育たない。それなのに水やりがまったく不要な雨の日が続いたのだ。大量の雨は小さな菜園には良いことの方が多い。しかし、8月から収穫が始まったブドウを始めとする商業用農作物には、大きな被害が出た。
 悪天候はそれに加えて「バカンス大国」イタリアのバカンス関連ビジネスにも甚大な被害をもたらした。財政危機による不況が続くイタリアだが、悪天候にたたられたリゾート地では、客の数が伸びず全てが大幅な収入減。多くの雇用も失われ、長い不況に加えての「泣き面に蜂」状態が続いている。
 リゾート地では、夏の終わりに少し天候が良くなった昨年の状況を踏まえて、9月にビジネス回復の期待をかけた。しかし、むなしく、例え10月が好天になって遅いバカンス客が戻っても、それは書き入れ時の夏の損失補填(ほてん)には程遠い。バカンス関連ビジネスの大幅な落ち込みは既に決定的なのである。その事実は、イタリア経済の先行きに垂れ込める暗雲をさらに重くしているように見える。
(仲宗根雅則、TVディレクター)