『日本霊性論』内田樹・釈徹宗著 受け身で超越を感知する


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 「現代の霊性」をテーマに2人の思想家が行った連続講義の記録を2部構成で収めている。共通するのは「現代日本が直面する喫緊の課題は霊性の賦活である」という問題意識だ。

 内田樹ブランドにひかれて手に取る人が多いと思うが、新著を次々に出す内田の近作の中では特に読みごたえがある。レヴィナス哲学と合気道を主な動力源とする思索と洞察力が、「目に見えない力」を論じるときにはフル駆動している印象だ。
 ここで言う霊性は特定の宗教・宗派とも自分探しのスピリチュアルやオカルトとも関係がない。人類が生き延びてゆくために欠くことのできない、人知を超えるものに対する感度と言えばいいだろうか。
 内田は言う。あちらとこちらの世界がある。こちらの世界を成立させるためには両者を分かつため、超越者からのシグナルを感知できる見張り役が必要だ。特に人間集団を支える司法・教育・医療・宗教の4分野において。しかし今、市場主義や個人主義の台頭によって4分野の感知力は徹底的に落ちている――。
 仏教者の釈徹宗は、鈴木大拙の著書『日本的霊性』を引きながら、日本的な霊性のモデルは、突然の悟りや霊能力を得た「宗教的達人」ではなく、信仰にあつい市井の「妙好人」だと指摘する。
 著者たちのダイナミズムに満ちた言説に共通するのは、「感知する力」「他力」「日常性」といった受動的感覚の重視だ。受け身の感性。地味だが、それが日本的な霊性だと言われれば妙に納得する。
 (NHK出版新書 860円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル 
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!

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