『蜩ノ記』 折り目正しい時代劇


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 黒沢明監督の助監督だった小泉堯史監督が、黒沢組のスタッフと手がけた「折り目正しい」という言葉がしっくりくるような時代劇。

 直木賞作家の葉室麟の同名ベストセラー小説が原作。ある事件を起こし、10年後に自害することを命じられた戸田秋谷の生きざまを、彼の監視役を命じられた檀野庄三郎を通して描いていく。
 時代劇とはいえ、理不尽な組織を舞台にした今に通じる普遍的な内容だ。次第に明らかになっていく、戸田が起こしたという罪。これがどうやら、藩の不祥事を隠蔽するために濡れ衣を着せられた…いや、自ら甘んじて罪を受け入れたようなのだ。戸田の武士としての矜持に感化され、不正を暴いていこうとする檀野の成長記録でもある。
 戸田がその時を待つまで、藩史を編纂しているのだが、その姿勢が良い。歴史は鏡。未来に正しい道を示唆するために、歴史を記しているのだという。つまり過去から学べということなのだが、でも現代人は過去から何も学ばず、過ちを繰り返しているよな…と考えこむことしばし。
 ただ岡田准一演じる檀野の実直さしかり、すべてが折り目が正し過ぎて、筆者にはどうもむず痒い。もう少し遊び心が欲しかった。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:小泉堯史
脚本:小泉堯史、古田求
出演:役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子
10月4日(土)から全国公開
(共同通信)
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。

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中山 治美