『やさしい人』


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才能が結びついて生まれた“人間の凡庸さ”の物語
 『女っ気なし』のギヨーム・ブラック監督の長編第一作である。主演は今回もヴァンサン・マケーニュ。我々は当然、愛すべき凡人シルヴァンの再登場を期待するわけだが、演じているのは新キャラで、しかもロックミュージシャンの役だけに痩せている…つまり、凡人度が目減りしているのだ。

 でも大丈夫。世界観はしっかりと『女っ気なし』を踏襲しているから。舞台は今回もフランスの地方の町。パリから実家に戻った主人公に、若くてかわいい恋人ができる。だが幸せも束の間、彼女は早々に元カレのサッカー選手と復縁してしまい…。
 画面を見る限り、よくあるフランス映画なのだが、どんなフランス映画とも何かが違う気がする。少なくとも、ヌーベルバーグの作家たちとは一線を画する個性がある。恐らくそれは、凡庸さへの愛ではないだろうか。決して人並みではない監督と俳優の才能が結びついて生まれた“人間の凡庸さ”の物語。ダメ男やダメ女の話ならいくらでもあるけれども、ギヨーム・ブラックの映画の登場人物は、我々日本人が見てもリアル。だから、どんなにとっぴな行動をとっても凡庸さが損なわれないのだ。
 本作の主人公もとっぴなのに凡庸な行動をとり、彼女の方もそれに凡庸さで答える。だから大丈夫。この凡庸さがある限り、ギヨーム・ブラックの未来は明るい! ★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ
10月25日(土)から東京・渋谷のユーロスペースで公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也