『トム・アット・ザ・ファーム』


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グザヴィエ・ドランの確かな才能が伝わる
 カナダの新鋭グザヴィエ・ドランとの出合いは、近年まれにみる衝撃だった。これは昨年のベネチア映画祭で国際批評家連盟賞に輝いた監督&主演作だ。今年のカンヌで最新作『Mommy(原題)』が、ゴダールの新作と審査員賞を分け合った25歳の天才監督にとって、傑作長編『わたしはロランス』との間に挟まったジャンル映画の本作は、箸休め的な位置付けなのかもしれない。だがその分、彼の確かな才能が不純物を交えずに伝わってくる。

 事故で死んだ恋人の葬儀のため、彼の実家の農場を訪れた青年トムが、恋人の兄による威圧と暴力により軟禁状態に陥っていくさまを描いたサイコ・スリラーだ。通底するモチーフである“同性愛”が随所でサスペンスと官能性を盛り上げる。
 ドランの天才たるゆえんは、何が“映画”と親和性が高いかを直感的に知っていることだろう。だから何げない風景や日常が絵になると同時に、リアルな空気感をすくい取れるのだ。俳優陣は身体性を帯び、現実音は生々しく響く。しかもサスペンスフルなBGMがその邪魔をすることはない。時計の秒針の音など効果音も絶妙である。画面サイズを適時変える演出もナチュラル過ぎて、それと気付かないほど。さらにラスト近く、トムが逃げ去った道にシャベルが突き刺さっている、そのセンス! 何もかもが彼の天才を証明している。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・主演:グザヴィエ・ドラン
出演:ピエールイヴ・カルディナル
10月25日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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