『指を置く』佐藤雅彦、齋藤達也著


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本と読者の関係を変える何か
 世にも奇妙な本を紹介しよう。うまく伝わるかどうか。
 各ページには絵や図が描かれている。指定に従って私たちは自分の指をその図版に置く。たとえば光る電球から2本の線が伸びる図版がある。読者は2本の線の先端に両手の人差し指をそれぞれ置く。すると「指先から電流を注入した結果、点灯した」という錯覚が生じる。この本の表紙の図なら、指を置くことで「影を引っ張った、さらには影を引っ張ることで実体を引っ張った」という感覚にとらわれる。

 私たちは書籍に向かうとき、自分自身の存在を消し去っているが、ある図版に指を置いた瞬間、図版中の出来事を自分が引き起こした、あるいは自分が巻き込まれたという感覚に誘われる。つまり指を置いた結果「紙メディア上の出来事が自分事になってしまう」。そこでは従来の書籍と読者との関係を根底から変える何かが起こっている。
 著者の2人はメディアクリエーターで、佐藤雅彦はNHK教育『ピタゴラスイッチ』の監修で知られる。2人は4年半をかけて創作した「指を置く」図版群をその機能によって9つに分類した。第8分類「次元の混交」では図版中に流れる時間に読者は関与し、第9分類「呪術性の生起」では謎めいた集団に参加する。そこで何が起こっているのか。本書では脳科学からのアプローチもなされる。
 図版「人生の起伏」では「自分の人生の出来事が、何故か書籍というメディアの構造に対応付けられている」。どんな図か想像できますか?
 (美術出版社 2500円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)

指を置く
指を置く

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