『マネー喰い』小野一起著


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金融記者と権力者たちとの攻防
 権力に抗して真実を追求する新聞記者像が色あせたのはいつからのことだろう。本書はメガバンク巨額損失の隠蔽工作を暴こうとする金融記者たちが、銀行、省庁、政党、新聞社の幹部らと繰り広げる攻防をスリリングに描いたエンターテインメント小説である。

 特ダネ競争に日夜しのぎをけずる敏腕記者3人の携帯に、夕刊の締め切り直前、大手銀行の業務提携を告知するメールが送られてきた。送り主は不明。さらに朝刊締め切り間際にも別の情報メールが。書けば特ダネ、書かなければ自社だけが報じない特落ちになる恐れがある。確認に奔走する3人。送り主は誰か。出世よりも現場を選んだベテラン記者山沢は、自分たちを翻弄するメールが金融界の巨大な腐敗に絡んでいる疑いを抱く――。
 解説の佐藤優が指摘するように、著者が記者出身だけに詳細に描かれた、金融業界と記者たちの生態が生々しい。記者同士の牽制や嫉妬、情報の取得と確認方法、取材対象によるマスコミ操作、新聞社幹部の事なかれ主義……。
 一方で私たちは知っている。強大な権力者と対峙して不正を暴く記者の姿が現実と隔たったフィクションであることを。半沢直樹の「倍返し」がサラリーマンにとって壮大な夢と幻想であるように。
 いや、その前に今や新聞のメディアとしての意義そのものが問われる時代だ。だがフィクションに託して描かれた記者魂がどこか普遍的な価値を宿していることも確かだろう。ならばその夢は常に描かれていい。
 (文春文庫 590円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)

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