『祝宴!シェフ』 腹はいっぱいになりました


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 映画『熱帯魚』のチェン・ユーシュン監督の、16年ぶりの長編を喜んでいいのか、でも嘆きたいような、複雑な心境だ。仮にも、アン・リー監督や故エドワード・ヤン監督らと共に台湾ニューシネマの到来と注目された人物である。それが効果音バリバリ、漫画か?と思うようなファンタスティックな空想シーンもてんこ盛り、川中の魚までもがしゃべっているような丸文字の字幕まで入って、まるで台湾のテレビ番組をそのまま見ているかのよう。

 ニューシネマの旗手も、今、台湾で映画を撮るとすれば、ここまで大衆に迎合しなければならないということなのだろうか。台湾映画界では先頃、ツァイ・ミンリャン監督が劇場映画からの引退を発表して話題になったが、まさかこの映画を見て、ツァイ監督が嘆いていた台湾映画界の生きづらさを実感するとは思わなかった。
 でもこれが、今の台湾映画界の現実であり、一方で若者にウケた理由なのだろう。伝統の料理人だった亡き父が遺したレシピと受け継いだ才能を生かして宴席料理大会に参加し、不運続きだった人生からの一発逆転を狙うヒロイン! 目にも美味しそうな台湾伝統料理に笑いやラブ、人情劇を加えれば、いっちょ上がりってか。
 料理ド素人の娘ができるメニューじゃないと思うんだけど。いろいろてんこ盛りで145分。はい、とりあえず腹はいっぱいになりました。★☆☆☆☆(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:チェン・ユーシュン
美術:ホワン・メイチン
出演:リン・メイシウ、トニー・ヤン、キミ・シア
11月1日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美