『馬々と人間たち』 アイスランドの大自然の圧倒的な映像


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 本年度の米アカデミー賞外国語映画賞にアイスランド代表で選ばれただけでなく、ベネディクト・エルリングソン監督は初長編映画ながら東京国際映画祭やサンセバスチャン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した。

 純血種を守り続けてきたアイスランド馬と人間が共存している彼らにとっては何げない日常を淡々と描いた本作。しかしその光景は、我々にとっては驚くべきシーンの連続で、自然の厳しさや、時に思いがけない死を招くことも教えてくれる実に味わい深い作品である。指揮官たる監督の手腕はもちろん大きい。でも本作の場合は撮影や録音、そして馬の名演が効いている。
 筆者なんて冒頭の、アイスランドの大自然の中を美しい白い牝馬が、ひづめの音を響かせながら走っているシーンだけで心をわしづかみにされちゃったもの。
 ほか、航海中のロシア船へウオツカを買いに行くご主人のために、海を泳ぐ馬とか、凍死寸前の人間の犠牲になる馬とか、馬の交尾シーンとか、どうやって撮ったんだ!?と考えずにはいられない。各エピソードがオムニバスのように羅列され、セリフも少ないので見やすい映画ではないのだが、余計な説明はいらないほど圧倒的な映像で我々に訴えてくるものがある。アカン。無性に馬が見たくなってしまった。競馬場に行っちゃおうかなー。
★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン
撮影監督:ベルグステイン・ビョルゴルフソン
出演:イングヴァル・E・シグルズソン、シャーロッテ・ボーヴィング
11月1日(土)から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラム、全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)