『マヤ・アンデス・琉球』 世界史の再構成に挑む


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『マヤ・アンデス・琉球』青山和夫、米延仁志、坂井正人、高宮広土著 朝日新聞出版・1400円+税

 初めて本書を手に取る時、ある種の違和感を覚えるかもしれない。高度な石器文明を物語る神殿ピラミッドや「ナスカの地上絵」に象徴される中・南米大陸の諸文明と、地球儀で見れば太平洋の反対側に点々とある小さな島(琉球列島)がなぜ並べられているのだろうと…。

結論から言えば、先史・原史時代の琉球列島は人類史上まれな「奇跡の島」であり、マヤやアンデスの諸文明と比べても決して“見劣り”しないと著者らは説く。
 本書は、考古学・人類学・古環境・年代学など文系・理系諸分野の専門家による文理融合型の共同研究『環太平洋の環境文明史』プロジェクト(2009―13年度)の概要と最新研究成果を一般向けにまとめたものである。サブタイトルに環境考古学で読み解く―とあるように、(湖底に1年単位で形成され、別名「土の」とも呼ばれる構造の堆積物)による詳細な古環境復元と年代測定を基に、環太平洋諸地域の「非西洋型」文明(マヤ・アンデス・琉球)にみる環境変動と文明盛衰の関係を明らかにする。
 紙幅から各章紹介はかなわないため、琉球列島に関する第4章を紹介する。本章は高宮広土・札幌大教授(先史人類学)が執筆を担当。氏が長年蓄積してきた「島の先史学」的データに基づく理解論を中心に、琉球考古学の最新情報や海外の「島」にみる事例・解釈を織り交ぜながら、分かりやすく書かれている。
 琉球列島の先史・原史時代を“島嶼環境とヒトの適応”点からみると、「狩猟採集から農耕への転換」「バンド社会から国家の成立」、そして、島という限定的で脆弱(ぜいじゃく)な環境資源を壊さない環境調和型の生業・社会を数千年も持続した可能性があったことを詳説する。世界的な「常識」からみて大変まれな文化現象がこの小さな島で幾つも認められるのは奇跡的であり、世界史・人類史に大きく貢献することを筆者は説く。
 従前の西洋中心史観によって「歴史の表舞台」から消された文明に光を当て、バランスのとれた“真の世界史”から環境との共生を説く本書は、知的枠組みを広げてくれる一冊である。(安座間充・沖縄考古学会会員)
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 あおやま・かずお 茨城大教授。専門はメソアメリカ考古学・人類学/よねのぶ・ひとし 鳴門教育大准教授。専門は年輪年代学、古環境学/さかい・まさと 山形大教授。専門は文化人類学、アンデス考古学/たかみや・ひろと 札幌大教授。専門は琉球列島先史学、人類学。

マヤ・アンデス・琉球 環境考古学で読み解く「敗者の文明」 (朝日選書)
青山和夫 米延仁志 坂井正人 高宮広土
朝日新聞出版
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