よりよく生きるを諦めない
この人の言うことだったら素直に聞こう。そう思える人がいることは幸せだ。年を重ねるごとにどんどん減ってきていて、私には今、松浦弥太郎さんしかいない。
本書は松浦さんが過去に発表してきた『今日もていねいに。』『あたらしいあたりまえ。』『あなたにありがとう。』の3冊の自己啓発的エッセーからベストな101編を選出し、再編集した本である。3冊のタイトルを見るだけで、どういった方向の本かは伝わると思う。松浦さんが日々の暮らしや仕事の中で発見した「役に立つ」ことが、ずらりと公開されている。
私が特に気に入っているのは「約束の本当の意味」という一編。約束は守るためにあるのではなく、相手を喜ばせるためにあるという教えだ。たとえば、来週の月曜日までに●●しますという約束を交わしたとしたら、その前日、遅くても当日の午前中にはそれを果たさなくてはならない。月曜日という日付のうちに終わらせたから問題ないと考えてはいけない。期限よりも早めに済ませることで、相手やその約束を大切に思っているという気持ちを伝えることができるというのだ。約束というのは相手に喜んでもらうチャンス。
かつて会社員だった私は、なかなか約束を守れない後輩にこのエッセーをコピーして渡したことがある。一読した彼は「やってみます!」と目を輝かせていたが、彼と私の間でその「約束」が果たされることはなかった。かく言う私も現在、この原稿を締め切り当日に書いているのだから、偉そうなことは言えないのである。
しかし松浦さんは別のページでこうも言っている。
「『やりたいけれど、できていないんだ』と確認することが、かなめとなります」
そんなことが101個も並んでいることを面倒くさいと思うか、よりよく生きるための余地と捉えるか。
できれば後者でありたいと願う人にはぜひともおすすめしたい一冊である。
(PHP研究所 1500円+税)=日野淳
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日野淳のプロフィル
ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。
(共同通信)
PHP研究所
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