「ゆるい」は「強い」かもしれない
CDが売れないと言われて久しい。ということはミュージシャンの書いた本はさらに売れないのである。その人の本なら買うけどCDだったら買わないという奇矯なファンはまずいない。ちなみに私が昔いた出版社では、ミュージシャンの本について考える場合、アルバムの10分の1の売り上げを目安として企画が成立するか否かを検討していた時代があった。
今はアルバムを買う人=かなり熱心なファンということになるので、私としては3分の1くらいかなという感覚であるが、いずれにしろビジネスとしてはなかなかに厳しいのである。
とはいえ本書はそういう売り上げ的な問題から最も自由な立場にいるように見える奥田民生さんの本である。
ソロ活動開始から20周年を記念して出版されたインタビュー集とエッセー集の間のような内容。
「ラーメンとカレーは昔から僕にとってはデカい存在だった。ラーメンとカレーとミュージック、それぞれが並ぶくらいの力があるような気がしている」
帯にも引用されているこの部分が実のところ本書の中で最も、奥田さんの哲学を感じさせる部分である。つまりこの本には読者を勇気づけるような金言はないし、生活に役に立つようなテクニックもなにも書かれていない。奥田さんにはそんなことを語るつもりは毛頭ないのである。
「ユニコーン」からソロになって、数々のヒット曲を生み出すわけだが、そこでの苦労話や感動秘話みたいなものも皆無。ちょっとした裏話はあるものの、驚かされたり、気づかされたりするエピソードというほどでもない。奥田さんの「ゆるい」感じが好きという人がいることも分からないでもない。
でも本当に「ゆるい」のだろうか。確かに行き当たりばったりで、できれば楽をしたい願望があるようだ。でもそれなりに一生懸命で、売れたいという欲もないわけではない。
じゃあ一体なんなのだと突き詰めれば、ラーメンとカレーとミュージックが好き、ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
それは「ゆるい」というよりはむしろ「強い」のではないか。そして「強い」は「売れる」理由のひとつとなり得る。
(KADOKAWA 1500円+税)=日野淳
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日野淳のプロフィル
ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。
(共同通信)
KADOKAWA/角川マガジンズ
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