『0.5ミリ』 安藤サクラ演じる“ハードボイルドな聖母マリア”


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 『カケラ』以来となる安藤桃子(モモ子)の監督第2作だ。主演は妹の安藤サクラ。『カケラ』の満島ひかり同様に際立つ身体性を見せるが、驚きなのは、これまでのハスッパさや庶民性といった彼女の魅力とは正反対の“崇高”な空気をたたえていること。姉だからこそ引き出せた魅力があったに違いない。

 介護ヘルパーのサワは、ある事件がきっかけで仕事も住む家もなくし、揚げ句は無一文に。生きるために彼女は“おしかけヘルパー”として、さまざまな老人の家を渡り歩く。
 老人介護という切実な社会問題を扱いながら、陰鬱な作品になっていないのがいい。街で見かけた老人たちの弱みにつけ込んでその懐へと入り込む、したたかな女性のサバイバル映画としても楽しめるけれど、それ以上に疲弊した家族を救済するヒロイン(ヒーロー)映画としての魅力が勝っているから。サワの内面がほとんど描かれない分、まるでイーストウッドが『荒野の用心棒』から『ペイルライダー』へと至る流れの中で演じ続けた、さすらいのガンマンのようである。否、むしろ“ハードボイルドな聖母マリア”と言うべきか。
 見終わった後にカタルシスすら覚えるのは、それ故だろう。物語が物語を進めるのではなく、行動や画面の劇性によって物語れる技量も含めて、安藤桃子は希代のストーリーテラーである。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:安藤桃子
出演:安藤サクラ、柄本明、津川雅彦
11月8日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也