『保健の心 気づきの力』 住民に寄り添う覚悟と矜持


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『保健の心 気づきの力』與那嶺君枝著 でいご印刷・1500円+税

 著者は琉球大学保健学部の1期生で、40年にわたり保健師、看護師、介護支援専門員として看・介護の現場で働いてきた。本書では、豊富なキャリアに基づき、保健指導の現状と展望について忌憚(きたん)のない意見を述べている。

 本書の趣意は「保健の心 気づきの力」のタイトルに凝縮されている。指導者の気づきの力は気づかせる力である。こと健康に関しては、誰もが自らの身体感覚を信じた持論を繰り返す。「善かれ!」と指導しても受け入れられず、事態が混乱することもある。第4章のケーススタディー(事例研究)には現場のやり取りが簡潔に記され、健康を取り巻く社会の変化や保健指導の課題があぶり出されている。著者は上から目線ではなく、対象の置かれた状況に謙虚に向き合い、臨機応変に指導する。言葉の端々に住民の健康に寄り添う真摯(しんし)な姿勢がうかがえる。
 保健指導者にとって「コンピテンシー」の自覚、ジョハリの窓、認知行動療法、コーチングの手法、ルーブリック評価など、専門的知識と技術の習得は不可欠である。しかし、最も重要なことは、これらの知識やスキルを指導の現場で活用できる人間力である。「専門職は生涯学習」「保健師はまさに黒子」と言い切る力強さはプロフェッショナルの覚悟と矜持(きょうじ)を現している。疾病(病気)とその予防対策(治療)にははやり、廃りがある。
 最近の疾病予防に関する喫緊の要事は生活習慣病、いわゆるメタボ対策である。本書では、一人でも実施できる食事や運動療法の具体的方法が示されている。沖縄が長寿県の代名詞であった時代は遠くへ過ぎ去った。されど、本書を通読して「長寿の島」の栄誉を取り戻すことは不可能ではないと思い直した。利便性に埋没しないで、記憶の糸に結ばれた沖縄独自の食文化や生活の知恵を生かすことが求められる。
 著者は誠実な教育者であり、ストイックな実践者である。今後は大局的見地から後輩の指導、人材育成に尽力されることを願っている。(川上正人・喜生会新富士病院院長、富士市介護保険者連絡協議会理事)
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 よなみね・きみえ 宮古島市生まれ。琉球大学保健学部卒。沖縄国際大学大学院修了(社会福祉学修士)。保健師、看護師、介護支援専門員。現在、那覇市特定健診課保健師(保健指導員)。