『私の裁縫箱』写真:村山玄子、取材・構成:一田憲子


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

ジャンキーたちの「例のブツ」
 誤解を恐れずに言おう。裁縫は麻薬だ。端切れやボタン、刺繍糸に色とりどりのテープやリボン……あ、この布にこの糸で刺繍したら超かわいいんじゃね?と箱の中を掘り起こしながらアイデアを膨らませる時間、脳内では静かにドーパミンが出まくっている(たぶん)。

 本書は、(おそらく)そんな脳内麻薬に取りつかれたお裁縫ジャンキーたちの必需品、消えたら禁断症状出まくりの「例のブツ」こと裁縫箱に焦点を当てたフォトエッセーだ。
 登場するのは刺繍作家にイラストレーター、布作家に子供服作家、そして市井のおばあちゃんたちの裁縫箱。お金持ちっぽいマダムのそれは、籐で編まれた上品な籠だし、美意識レベルがエベレスト級のクリエーターは、裁縫箱までやたらとシック。飾り気のないおばあちゃんは、娘さんが学生時代に購入したプラスチックの裁縫箱を大切に使っている。それぞれの人柄や感性が、まるで箱庭療法のようにいや応なく映し出されているもの、それが裁縫箱なんだ。
 「かわいい」をつくり出す箱の中には、当然かわいいアイテムもいっぱい。あ、この糸切りばさみ、シルエットがきれいだな、あ、この待ち針、クラシカルでいいな……おっといけない、また脳内麻薬が出てきてる。よし決めた、今度、木工にハマってる母親に小さなお椀を作ってもらおう。そんでお椀の上に綿を詰めた布を張り付けて、小さなピンクッション作っちゃおう! と、本書に新たな創作意欲をもらいました。
 え?ちなみに私の裁縫箱? 手芸用品専門店ユザワヤのでかいビニール袋に布やら糸やらはさみ(!)やらを一挙にぶち込んだ、愛も夢も希望もない裁縫箱もとい裁縫袋ですけど、何か?
 (マイナビ 1560円+税)=アリー・マントワネット
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アリー・マントワネットのプロフィル
 アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。
(共同通信)

私の裁縫箱 ~小さな箱からはじまる手作りの物語~
マイナビ 毎日コミュニケーションズ=
マイナビ
売り上げランキング: 83,990
アリー・マントワネット