温度差ありまくりの人情劇
大ヒットマンガ『きょうの猫村さん』のユルい世界観にハマるどころかあざとくさえ感じていた(そしてそれを公言できないでいた)そこのあなた。あれだけでは漫画家・ほしよりこを語ることはできない、そのことを教えてくれる新刊が発売されましたよ。
逢沢りく。オシャレなパパ、カンペキなママと暮らす14歳。彼女はまるで蛇口をひねって水を出すようにいつでも嘘の涙を流すことができた。美しく、友人たちから「オーラがある」と憧れられ、また彼女自身も自分が特別な存在であることを熟知しているりく。そんな彼女はある小さな事件をきっかけに、関西に住む親戚の家に預けられることになる。「バイキンが移るから」と動物も病院も避け、「関西には馴染まない」と親戚もクラスメートも避けるりく。他者に心を許すことを頑なに拒否する少女とコテコテの関西人が織りなす、温度差ありまくりの人情劇だ。
東京で暮らしていた頃のりくは、自分の本心を押し殺し、母親の身勝手な要望に応えることで自分の存在価値を見いだしていた。感情を表すとはどういうことなのか、その術を知らないりくの心は、子供と動物と無駄にハートウォーミングな親戚たちに、半ば強引にこじ開けられていく。
笑って笑って笑った揚げ句、最後にじーんとくる。ユーモアあふれる登場人物たちの悲喜劇を、洗練された演出で読ませる長編作だ。あーやられた。ほしよりこ、一気に好きになっちゃったよ。
(文芸春秋 上下巻各1000円+税)=アリー・マントワネット
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アリー・マントワネットのプロフィル
アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。
(共同通信)
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