『谷川さん、詩をひとつ作って下さい。』


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ユニークな方法で詩の奥深さに迫る
 映画は良い。だが本作の魅力について語るとなると、困ってしまった。正確には、社会なり個々人の感情を短い言葉で的確に表現している谷川俊太郎の匠の技に触れた後で、じゃあ、「同じプロを名乗っているあなたはどんな言葉でこの映画を語ってくれるの?」という難問を突きつけられたようで、しばし天を仰いでしまった。それだけ本作が詩の奥深さや、言葉を操れることの人間的な豊かさを再認識させてくれる興味深い作品であることは間違いないのだが。

 そこには当然、本作の構成のうまさもある。谷川さんの魅力に迫ったドキュメンタリーはTVでもあったが、谷川さんの詩が多くの人に支持される理由に迫った内容は初めてではないだろうか。アプローチの方法がまたユニークだ。福島の女子高生や青森のイタコ(霊媒師)など、一見、谷川さんと無縁に思える方たちの境遇をインタビューし、谷川さんの詩を朗読していく。彼らのために作った詩ではないのに、両者が見事にシンクロしていくのだ。そして最後に、この映画のために作られた谷川さんの詩が紹介されるのだが、その内容と言ったら! 脱帽。
 昨今の何でもかんでも「ヤバい」の一言で片付けてしまう若者言葉に警鐘を鳴らす作品でもある。日本語にはもっと的確かつ美しい言葉が豊富にあるのに。とかいいつつ、筆者も猛省して俳句なんぞ始めてしまったりして。
 詩じゃないのかよッ!と自分で自分にツッコミました。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:杉本信昭
音楽:谷川賢作
出演:谷川俊太郎、ユルク・ハルター
11月15日(土)から東京・渋谷のユーロスペース、全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美