志の高い監督のチャレンジ精神
きっと、世界中の映画監督が、本作を見て嫉妬したに違いない。ドキュメンタリーではなく、フィクションで、一人の少年を12年間も追い続ける。移り変わりの早い世の中に、うらやましい企画だ。
当然そこには、このアイデアを思いついたR・リンクレイター監督のチャレンジ精神や根気、周囲を納得させるだけの信頼があるわけだが。この企画に賛同して製作費を捻出した映画会社の英断にも拍手を送りたい。結果本作は、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)や本年度の国際映画批評家連盟賞を受賞しているワケだが、拝金主義がまかり通る昨今の、希望の光のような作品だ。
内容はズバリ、米国の片田舎に住む少年メイソンの、12年間にわたる成長の記録。両親の離婚や、母親の再婚、そして自身の恋と一歩ずつ大人になっていく姿を、イラク戦争やオバマ大統領就任などの米国史と重ねあわせながら描いていく。ある意味、物語は王道なのだが、メイソン役のエラー・コルトレーンがまさかのイケメンに成長していったり、母親役のパトリシア・アークエットが急にどすこい体形になったりと俳優陣のリアルな変貌を楽しみたい。
リンクレイター監督は『恋人までの距離(ディスタンス)』シリーズといい、ドキュメントとフィクションの境を描くのが実にうまい。高い志のある良い監督なんだなと、再認識。★★★★☆(中山治美)
【データ】
監督・脚本・製作:リチャード・リンクレイター
撮影:リー・ダニエル、シェーン・ケリー
出演:パトリシア・アークエット、エラー・コルトレーン
11月14日(金)から全国公開
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中山治美のプロフィル
なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)
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