県知事選で初当選を果たした翁長雄志氏は17日、琉球新報社で潮平芳和編集局長によるインタビューに応じ、普天間飛行場の移設問題や経済振興の考え方、県政運営についての抱負など、所感を語った。
―一夜明けての気持ちは。
「使命感と責任感をずしりと感じている。県民からの期待と、横たわる問題の大きさという両方がある。両方に向き合い、頑張っていくしかないという気持ちだ」
―約10万票差はどう感じているか。
「世論調査でいい結果が出ているのは聞いていたが、他候補の終盤の追い上げもすごく、にわかに信じられなかった。沿道での反応の良さなど選挙戦を総合してみると、県民の思い、特に基地問題への思いの大きさを感じている」
【県政運営、経済振興】21世紀ビジョン生かす
―細かな公約を掲げた。優先して何に取り組むか。
「21世紀ビジョンを読み込むと、沖縄のこれからのベースになるべきものだと思うので、これを生かしていかなければならない。最も注目すべきはアジアのダイナミズムに沖縄が進出していくということ。那覇空港の国際物流拠点、情報通信産業などで沖縄が果たす役割は大きい。海外観光客の受け入れに向けた施設整備、県産品、伝統工芸品にも目を向ける。アジア経済戦略構想の策定に向け有識者らの提言を受けたい」
―仲井真県政の何を踏襲し、何を見直すのか。
「仲井真さんの合理的な経済運営は評価するものだ。ただ沖縄の置かれている立場がある。象徴的なのはカジノには反対するということなどだ。沖縄の自然や歴史、伝統文化という誇れるソフトパワーが観光や産業を呼び込むための相当な力になっている。県民の誇りの上に沖縄の経済や社会の成り立ちがあると考える。誇りある豊かさだ」
「戦後の冷戦構造の中で、自分で持ってきたわけでもない基地を挟んで保守と革新がいがみ合わざるを得なかった。保守は経済、革新は尊厳や人権だった。ただ、今のアジアのダイナミズムの中で、経済の位置付けが大きくなってきたが、人の心の中で(経済か尊厳かではなく)生活と平和を一緒に考えられるようになった。それがオール沖縄だと思う。オール沖縄は、誇りのない豊かさではない。誇りのある豊かさだ。その関連性を踏まえてやっていきたい」
「殺伐とした豊かさではなく、潤いのある豊かさだ。グローバル化の進展で格差社会が拡大する可能性があるが、沖縄ではそうなってはいないとなれば世界にも注目されることになる」
―副知事の人事構想や、県政運営の考え方は。
「市長を4期14年やり、一定の見識は持っている。慌てずいろいろな方の意見を聞いて決めたい。行政は職員が8割方の仕事を粛々と進め、残りの2割は大きな目標に向かって知事や市長が引っ張っていくというものがある。職員の働きが乱れず、前に進むようなピラミッド型をつくっていきたい」
【普天間問題】権限の厳格行使を検討
―辺野古移設阻止を掲げた。具体的にどう進めるか。
「8年前に議員らと硫黄島の視察に行った経緯があり、どこか県外に持っていきたいとやってきた。ただ県外に持っていけという主張は無責任だという批判が沖縄から出るのは寂しい。基地を勝手に造られ、69年たって世界一危険だからどかすけど、移設先はお前たちで探せという発想はおかしい。政府で考えてくれというのは当たり前の話だ。こういったことが理解されず、危険を除去するために移してあげるのに、沖縄は何をばかなことを言っているのかという話が通っている。そうではないということを知らしめたい」
「基地は振興の阻害要因だということが今回の選挙で県民にも理解してもらったかと思う。基地に反対したら発展はないという意識が変わってきた」
「未来永劫(えいごう)にわたり普天間を固定化するとなると、事故の可能性を考えれば、日米安保体制は吹き飛ぶ。私なりの考えだが、新辺野古基地を造らせないということが、普天間を固定化させないということになる」
―仲井真さんは移設前提に5年以内の運用停止を挙げた。移設なしでも普天間を閉鎖に追い込めるという構想か。
「5年の基点が曖昧なこともあり、信用していない。米側からも『空想だ』との反応がある。ただ、新基地を造らなければ、物事は動かざるを得ないというのが私の確信だ」
―埋め立て承認の取り消し、撤回の取り組みは。
「埋め立て承認と振興のリンクを10万票差で吹っ飛ばした。日米両政府に赴き、沖縄の現状を訴えたい。民意が示されたことを受け、両政府に変化が出るかも見極め、国連への要請も視野に入れる必要がある。名護市長とも相談しているが、知事権限の厳格な行使を検討している。知事承認に至った検証や今回の選挙結果を踏まえ、取り消し、撤回についての考え方をしっかりまとめる。不退転の決意でしっかり対応したい」
―工法の変更申請への対応は。
「報道でしか知らないが、変更によって(より環境への影響が)劣悪になるものもある。分かりましたとは言い難い変更だ」
―今回の選挙ほど沖縄の自己決定権が叫ばれた選挙はなかった。
「自己決定権は長い歴史の中で沖縄、琉球が抱えてきた問題だ。今もって多くの県民が基地の存在に違和感を持っている。70年前のあの悲惨な地上戦だけでなくて、将来に向けても皮膚感覚で恐怖的なものを持っている。平和、基地の問題で自己決定権がないために翻弄(ほんろう)されるようでは、沖縄に生まれた政治家としては、将来の子や孫に責任が持てないと思っている」