そこそこ明るい未来
冒頭で紹介されるデータにまず驚かされる。
1950年代、日本人は人口の4分の1しか就職していなかった(多くは家業か日雇い)。現在、ITと分業の進展で仕事の絶対量は激減し、全労働者のうち4割が派遣社員やパート。日本の企業の平均寿命はわずか7年! 学校を出たら就職するのが当たり前という時代は終わりつつあるというのが本書の基本的認識だ。
そこで「就職しない生き方」のすすめ。著者は言う。現在、私たちの支出の7割は「食べるため」ではない。モノを貸し借りしたり共有したりすれば、生活コストはさほどかからない。これからは安全弁として多数の小さな仕事を持つ「多職」の時代。そのとき求められるのは、他人とつながるために人から評価されること。つまりこれからは「かわいげ」のあることが、いかなるビジネススキルや資格よりも有効になる――。
これはいわゆる「贈与経済」の具体的イメージの提示だろう。その一例が本書の作成プロセスだ。岡田斗司夫の支援組織「FREEex」のメンバーが岡田の発言や原稿をもとにアイデアと労力を出し合って共同制作した。代わりにメンバーはコンテンツを好き勝手に利用してビジネス展開できる。同じ方式で岡田のブログ、メルマガ、講演会も運営されているという。
弱肉強食の強欲資本主義に対抗する本書の提言が現実的にどこまで有効かは未知数だが、全編にはなんだか軽やかな風が吹いている。そこそこ明るい未来が描かれている。
(PHP新書 760円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル
かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
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