こういう人はこういう話し方をする
「おら、ちょっくら行ってくるだ。おとなしくしてるんだべ」「わっちの相手は旦那だけでありんす」。その言葉遣いを聞いただけで、私たちは話している人物のキャラクターを明確にイメージできる。
ある特定の言い回しに特定の人物像を思い浮かべることができるとき、その言葉を編者は「役割語」と名付けた。本書は「世界で初めての役割語に関する辞書」だという。とはいえ、収録語はわずか約120語。小説やアニメ、ドラマ、落語などから事例を引き、網羅性よりも読んで楽しい、漫画もあるから見ても楽しい辞書になっている。
役割語は「こういう人たちはこういう話し方をする」というステレオタイプな認識に基づいている。その認識をもとに各役割語を「女ことば」「武士ことば」「やくざことば」などに分類した。
たとえば「わしは満足しておるのじゃ」の「わし」や「~じゃ」は「老人語」。「われわれ」という代名詞は「演説語」(われわれは国民の代表だ)であり、「宇宙語」(ワレワレハバルタンセイジンダ)にもなる。「ほほほ・おほほ」という笑い方は「お嬢様ことば」「奥様語」に分類されている。
各役割語の使われ方の歴史的変遷が面白い。「ぼく」という一人称は「書生語」→「上司語」→「少年語」へと変わって、弱い男性性を示す代名詞に、さらに近年は少女や冷酷・残忍なキャラクターの表現に使われているという。いやー、時代ですなぁ。の「ですな」は「おじさん語」だそうだ。
(研究社 2000円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル
かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
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