ぐわお わお わお わおー
幼児が書きなぐったような筆致で、絵の具が本からはみ出しそうだ。わずかな文章には「ぐわお わお わお わおー」「はへ はへ はへ はへ」「だっ だっ だっ ざっ ざっ ざっ」といったオノマトペがあふれる。破天荒でプリミティブなパワーに満ちた絵本だ。
猫の「オレ」は目の前に来た「きいろ」を捕まえようとする。が、逃げられる。追いかけているうちに、きいろはテントウムシになり、雨になり、モグラになる。絶対捕まえてやる。追い抜かれたり通り過ぎたり、蹴散らかしたりグルグル回ったり。疲れてぐったり。また死にものぐるいで追いかける。きいろはバッタになり、葉っぱになり、蝶々、ニワトリ、カメ、ライオン、すべての生物になり……。
作者のミロコマチコは、今いちばん注目される絵本作家だろう。デビュー作『オオカミがとぶひ』で昨年、日本絵本賞大賞、今年に入って『てつぞうはね』で講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくのふとんはうみでできている』で小学館児童出版文化賞を連続受賞した。生きものたちの世界をダイナミックな筆致と自由奔放な発想で描いた作品は、思わずブワーッとかグイグイとかオノマトペを使って表したくなる。
確かに猫ってちょこまか動くものに過剰に反応し、気が触れたのかと思うくらい追いかけることに夢中になる。そんな猫の生態がやがて幻想的な世界に昇華して、ついにまぶしいばかりの命の豊かさに彩られたラストへ。最後の絵を表す言葉は、やっぱりブワーッかな。
(WAVE出版 1500円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル
かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
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