『くるみ割り人形』 人形が醸し出すぬくもりは格別


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 1972年にサンリオが製作した実写人形アニメーションを、3Dなどデジタル技術を駆使して再構築。夜更かししている子供をネズミに変えてしまう怪人・ジャッカリンの存在を信じている少女クララが、迷いこんでしまったネズミの世界。そこで味わう摩訶不思議な体験を描いたファンタジーだ。

 チャイコフスキー作曲のバレエナンバーとしておなじみだが、映画版ではさらに眠らされたままの瓜二つの姫や、妖術使いなども登場し、少女にとってはなかなかシビア。それをカバーするのがキュートな人形やポップな色彩。さらに今回、新たな3Dアニメーションも加わり、夢の世界へ誘う演出に子供だけじゃなく大人心もくすぐられちゃう。
 でも40歳も半ばになって感じるのは、自分たちは豊かな作品を見て育ってきたのだなというありがたみ。日本は昔から『ひょっこりひょうたん島』を筆頭に優れた子供向けの番組が多数あったワケだが、どれだけ手間暇をかけて製作されていたのかと、今になって思う。ゲームもアニメも、もちろんその背景には何十人もの人の手が携わっているのだけど、人形が醸し出すぬくもりはまた格別で愛おしい。
 3Dの醍醐味は新たに加えられたアニメパートしか実感できないのだが、まぁ、それはそれとして、こうして良作を再評価する機会を与えてくれたことに感謝。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:増田セバスチャン
3D監督:三田邦彦
声:有村架純、松坂桃李、藤井隆
11月29日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美