『沖縄の水中文化遺産』 歴史ひもとく面白さ体感


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄の水中文化遺産』南西諸島水中文化遺産研究会編 ボーダーインク・1800円+税

 「水中文化遺産」というと、多くの人は超古代文明の「海底遺跡」や海賊王の財宝などを想像するかもしれないが、本書で扱うのは主に琉球王国時代の遺物、海に沈んだ木造船やその積み荷、沿岸部の生産遺跡である。

 海上交通が活発だった歴史がありながら、これまでほとんど注目されてこなかった沖縄の水中遺跡と文化財だが、この未知の領域に若手研究者たちが初めて本格的に切り込んだ。
 本書の真骨頂は、水中・陸上遺物と文献記録を各分野の専門家が分析し、19世紀に宜名真沖(国頭村)に沈没した欧米船の実態を解明したことだ。
 潜水調査で引き揚げられた水中遺物、イカリやバラストなど陸上に残る沈没船の痕跡、琉球の歴史記録、イギリスの外交史料など多方面からこの問題に迫り、沈没船が1872年に香港から米サンフランシスコに向け出港したイギリス船ベナレス号であることを突き止める。著者たちのチームプレーは鮮やかというほかない。
 船員名から積み荷、生存者の様子や救出船が迎えに来るまでの経過…歴史のベールに包まれていた謎の数々が一挙に明らかになる。だが残された問題は、沈没船の遺物の中から、粗末な中国染付碗(わん)が見つかったことだ。イギリス船になぜ粗末な中国碗が?-。
 この謎に対し、まさに歴史の神の導きとしか考えられない「助っ人」が偶然、現れる。そしてこの碗に秘められていたのは、名もなき人たちの知られざる歴史であった。歴史をひもとく面白さを十二分に体感させてくれる内容である。
 また、本書は「水中文化遺産」とは何か、世界や日本の事例を紹介し、南西諸島の各遺跡や遺物などを丁寧に解説している。これほど多くの遺跡が目の前の海に眠っていたのか、と読者は感じるはずだ。
 「水中調査入門」もあり、調査・研究手法についても分かりやすく説明されている。聞き慣れない分野の全体概要を知る上で重宝される。本書は今後、沖縄における水中遺産研究のバイブルとなり得るだろう。
 (上里隆史・早稲田大学琉球・沖縄研究所招聘研究員)
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 南西諸島水中文化遺産研究会 片桐千亜紀(かたぎり・ちあき)1976年長野県生まれ。沖縄国際大学文学部卒。県立博物館・美術館学芸員▽宮城弘樹(みやぎ・ひろき)75年沖縄県生まれ。沖縄国際大学大学院修了。名護市教育委員会学芸員▽渡辺美季(わたなべ・みき)75年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。同大大学院准教授。

沖縄の水中文化遺産―青い海に沈んだ歴史のカケラ
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