『花と幾何学もようの刺繍』高知子著


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誰もいない空き地で静かに咲く
 数ある手芸の中で、なぜこんなにも刺繍に心を奪われているのか、説明するのは難しい。ただ言えるのは、作家によって世界観がまったく異なること。もちろんそれは絵画でも小説でも映画でも、ありとあらゆる表現すべてに言えることなんだけど。

 高知子の新刊は、タイトル通り花と幾何学模様のモチーフが並ぶ。懐かしさを感じるレトロな風合いでありながら、どこか奇妙だ。まるで夢で見た、誰もいない空き地に咲く花のような……。そんなことを考えながら冒頭にある高のコメントを読んで気付いた。描かれている花はどれも、架空の花なのだ。どこかで見たような、どこにもいない花の数々。
 刺繍は、ひと針ひと針刺すことでひとつの世界観を描く。親しみの湧くポップな世界もあれば、今回のように一度その世界に立ち入ったら帰って来られないような、危うさを感じる世界もある。それでも一歩踏み出すように、針を進める。歩みを止めなければ美しい花畑が広がることを知っているから。
 (文化出版局 1300円+税)=アリー・マントワネット
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アリー・マントワネットのプロフィル
 アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。
(共同通信)

花と幾何学もようの刺繍
高 知子
文化出版局
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