『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』


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国籍や偏見を超えた愛情
 日韓関係が悪化し、ヘイトスピーチが平然と行われる殺伐とした雰囲気の今こそ、観てほしい作品だ。39歳という若さで亡くなった不世出の画家イ・ジュンソプと妻・山本方子の愛の軌跡を追ったドキュメンタリーだ。

 戦時中に文化学院で出会い、1945年に挙式して韓国で暮らし始めた2人。しかしその後、朝鮮戦争勃発で避難生活を余儀なくされ、体調を崩した子供たちを伴って日本に帰国した方子。だが今度は、日韓の国交が結ばれていなかったために家族の再会はままならず、離ればなれの運命に…。なぜかくも歴史や政治は、純粋な心を持ったか弱き人たちを傷つけるのか。腹立たしさと切なさが入り交じる。
 家族が離ればなれになっている間、ジュンソプが方子に送った膨大な手紙が公開されるのだが、ただ「会いたい」と願う切実な思いと方子へのあふれんばかりの愛がつづられていて、余計に胸を締め付けられる。この手紙は今、済州島にあるジュンソプの記念館でも公開されていて、韓国ドラマでも取り上げられたそうだ。国籍や偏見を超えた2人の愛情が、せめて若い世代に語り継がれていくことを願わずにはいられない。
 ただ当然ながらこれは一例に過ぎないことを肝に銘じなければならない。権力を握る者のつまらん私利私欲や意地の張り合いで泣いている人がどれだけいることか。そんなことを改めて考えさせてくれた酒井監督にも感謝したい。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:酒井充子
プロデューサー:小林恒行
出演:山本方子、山本泰成、キム・インホ
12月13日(土)から東京のポレポレ東中野、全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美