『自由が丘で』


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クセになる脱力系恋愛物語
 これも一つの“洗脳”というヤツでしょうか。また同じパターンと思いつつ、何年も見続けているとホン・サンス監督が放つ脱力系恋愛物語がクセになってきた。同様の病に侵された映画人は多く、フランス女優イザベル・ユペールが『3人のアンヌ』に出演したのに続いて、本作では加瀬亮が参加。“韓国のゴダール”っていうより、韓国のウディ・アレンって感じ? いずれひょっこりブラピあたりが登場するオールキャストの恋愛劇が生まれたりして。

 というわけで今回は、忘れられない女性に会うために韓国を訪れた日本人モリの、奇妙な韓国滞在記。肝心な彼女になかなか会えぬまま、カフェ「自由が丘」のオーナーとのつかの間の恋や、ゲストハウス住人たちとのうっとうしいけど温かい交流を繰り広げる。これが、モリが滞在中に書いた手紙を彼女が読む形で再現され、しかも途中で彼女が手紙を落として便箋の順番が分からなくなったため、時系列がバラバラになってしまった…というユニークな構成。それが作品に効果的に表れているかはまた別問題だけど。
 そして今回も、相も変わらず酒を飲むダラダラとしたシーンが多い。でも一見無駄に思える時間が、次の一歩を踏み出すための思考をめぐらせたりする大切な時間なのだ。酒飲みの言い訳? いやいや、人生のはざまの時間と呼んでくれ。ねっ!ホン監督。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:ホン・サンス
撮影:パク・ホンニョル
出演:加瀬亮、ムン・ソリ、ソ・ヨンファ、キム・ウィソン
12月13日(土)から東京のシネマート新宿、全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美