【島人の目】車中から


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 那覇の街が眼下に見下ろせるモノレールが好きで、帰ると必ず乗ることを楽しみにしている。短い距離ながら空港から首里までの小さい路地のどこもかしこも新鮮で味わい深く、何と言っても那覇の街の明るさがいい。数年前、他府県に嫁いで65年余になる伯母が久方ぶりに帰郷した折、父と共にモノレールに乗ってもらった。伯母は流れてくる童歌に感動し、「てぃんさぐぬ花」の時は感極まって涙し「那覇は立派な都会になった」と感無量の様子だった。そして父にとっては、モノレールの乗車はこの時が最初で最後となった。

 今回、青空の下、観光客で混雑している車両に乗ったところ、中国語を話す男性2人がどこで降りるか検討中の様子。どこに行きたいか尋ねたら、あれこれよもやま話になった。2人は会社の同僚で休暇を取り、東京観光の後、沖縄入りしたそうだ。数十年前までは台湾の個人観光はできなかったはずなのに。豊かになった時代の波を思いつつ、2人に沖縄の印象を聞いたら「台湾とあまり変わらない」とのこと。新都心駅に着くとお礼を言いながら下車する爽やかな青年2人に「良き旅を」と手を振った。
 さて、所変わって東京。電車に乗ると異様な風景を目の当たりにする。ほとんどが携帯電話に集中している。かつての新聞や漫画本を広げている車中の光景を懐かしく思い出した。
 後日、友人の娘らと会食の約束があり息子と2人、電車で出掛けた。すると斜め向かいに座った20歳くらいの女の子がおもむろにバッグから鏡を取り出し、顔に何やら塗りたくっていく。眉を描き始め、アイライン、アイシャドウを入れていく。微妙に揺れ動く電車の中でよくぞ器用にラインが描けるものだと感心した。そして、周りに気を使うこともなく、変わりゆく自分の顔に自己陶酔している。さらに女子高校生たちがなんと、短いスカートで足を広げて座っているのにも驚いてしまった。沖縄県出身の友人の娘らにその話をすると「私たちは絶対そんな事はしない」と、恥ずかしい行いだとブーイングしたのには安堵(あんど)した。退勤時間だけでなく、朝の通勤電車の中でも乗客は皆疲れているように感じるのは、私が若かったころとそう変わらないが、東京の電車が時代とともに無機質の空間に変わっていっているように感じた。
(鈴木多美子、米バージニア通信員)