『エレナの惑い』『ヴェラの祈り』 家族を通して描く男性社会ロシア 


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 2003年に長編初監督作『父、帰る』でベネチア映画祭の金獅子賞を受賞したロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ。彼の長編第2作『ヴェラの祈り』(07年/写真)と第3作『エレナの惑い』(11年)が同時公開される。いずれも『父、帰る』同様に“家族”がモチーフになっている。

 『ヴェラの祈り』は、突然妻から「妊娠したの、でもあなたの子じゃない」と告げられた夫が下した選択を通して夫婦間の埋められない溝を描く。アンドリュー・ワイエスの絵画を参考にしたという映像の力は圧巻である。『エレナの惑い』は、初老の資産家と再婚したエレナの話で、こちらも「明日、遺言を作成する」という夫の一言によって運命の決断が下される。主な舞台となるのは生活感のない高級マンション。シネスコ・サイズによる室内劇が見事に成立している。
 演出上の野心を誇示するかのような映像表現を見せる前者に対し、抑制の利いた物静かな印象すら受ける後者の演出は明らかに今風。見比べてみると映画演出における時代性があらわになるのは、手法面では独自性よりも時代に敏感な監督だからだろう。その上で、男社会であるロシアの問題点を家族を通して指摘し続けるテーマ性は首尾一貫している。それにしても、旧ソ連圏の監督は、イオセリアーニやソクーロフもそうだが動物の使い方が本当にうまい。★★★★★(外山真也)

 【データ】
『エレナの惑い』出演:ナジェジダ・マルキナ、アンドレイ・スミルノフ
『ヴェラの祈り』出演:コンスタンチン・ラヴロネンコ、マリア・ボネヴィー
12月20日(土)から東京のユーロスペース、全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
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