モノにとりつかれた尋常ならざる人生
モノを持たない暮らしが当世風だとすれば、本書に登場する14人の蒐集(しゅうしゅう)家は真っ向から時代に逆行している。モノ集めに賭けた尋常ならざる人生を、貴重なコレクションのカラー写真とともに紹介する。
14人の蒐集対象は昭和家電、びん、虫、おもちゃ、根付、鉄道、コイン、布、鉱物、凧、軍隊、ワイン、パチンコ台、エジプト美術。
鉄道マニアといっても半端ではない。経営するカレー店前には本物の踏切信号を点滅させ、扉から椅子、照明すべて鉄道備品。解体された蒸気機関車の主動輪を引き取り、1976年から一日も欠かさず磨いているという。
パチンコ台の蒐集家は小学2年でパチンコの魅力に取りつかれて以来、遠足や修学旅行、卒業式にも行かずパチンコ店に入り浸り。パチプロやパチンコ台販売員をしながら集めたパチンコ台を収納するため転居を重ね、やがてパチンコ博物館をオープンした。
蒐集を通じて文明の変化も見えてくる。マーケティングが発達し、実用に供さないユニークな家電が生まれなくなった。モノ作りが手仕事から大量生産となり、ガラスびんから魅力的な個性が失われた。モノがあふれる時代は蒐集家にとって必ずしもいい時代とはいえないようだ。
稼いだ巨額のお金をすべて凧につぎ込んで一文無しになった蒐集家が言う。世の中の基準に照らせば自分は負け組だが、人生を楽しんだという意味では勝ち組だ、と。おっしゃる通り。まねはできないが、うらやましい。
(バジリコ 2000円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル
かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
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