『みんなのアムステルダム国立美術館へ』


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真の民主主義とはこういうこと
 ようやく、闘いの歴史に幕が下りた。2004年に大規模改修のために閉館したアムステルダム国立美術館。しかしその改修案が、市民が愛する美術館を貫く通路の使い勝手が悪くなるものだった。そこで美術館側vs.市民の戦いが勃発し、当初、再開予定だった08年から大幅に遅れることに。

 その模様は前作『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』で描かれたが、その続編だ。物言いがついた建築家は「我々はコンペで勝ったのに…」と愚痴るわ、館長は変わるわ、モメてる間も学芸員は再オープンに備えての準備はしなきゃならないわで大わらわ。ようやく決まりかけたと思うと、またケチが付き…の繰り返し。
 前回同様、しみじみ思う。当事者たちはうんざりかもしれない。しかし、米軍基地移設問題しかり集団的自衛権問題しかり、権力者が民意を無視して強引に事をすすめていく日本と異なり、皆が納得するまで論議することはなんて有意義か。真の民主主義とはこういうことを言うのだろうとうらやましくなる。
 そして同美術館は、規模を縮小して開館するなどの策を講じながら、10年間の歳月を経て13年4月に再オープンした。先日、旅番組を見ていたら、アムステルダムの見どころを尋ねられた市民が、問題の通路を紹介しながらこう言った。「私たちの自慢の通路なのよ」と。事の経緯を知ってる筆者は涙が出そうになった。市民が胸をはれるような事業が、日本にどれだけあるだろう? ★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:ウケ・ホーヘンダイク
プロデューサー:ハイス・ファン・デ・ウェステラーケン
出演:アムステルダム国立美術館の館長
全国順次公開中
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美