『サンバ』 仏映画の伝統芸をナメちゃいかん


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 また、恋愛モノか…。と、フランス映画を見るとマンネリ化にあきれてた。しかし、そうして培われた伝統芸をナメちゃいかんと、本作を見て猛省。ビザが失効し国外退去命令の出た黒人移民と、移民支援協会のボランティアの恋。日本ならまず職権乱用とか何とか言っちゃって、まずこの設定すら企画に上がらないだろう。

 だが本作は2人の交流を通して、人種や移民問題に加え、大都会パリで女ひとりが生きていくことがいかにストレスフルであるかまでも描いていく。そこに洒脱な会話や笑いもちりばめ、極上のエンターテインメントに仕上げてしまったのだからアッパレ。
 監督&主演が、前作『最強のふたり』を大ヒットさせたトリオと聞けばナットクか。前作でも黒人青年が障害のあるセレブ老人を介護することで、階級社会であるフランスの一面を鮮やかに切りとっていた。その意欲作が多くの人に支持され、新たなタブーに斬りこむチャンスをつかみ、自信へとつながっているのだろう。まだまだ偏見があるであろう黒人男性と白人女性の恋だって、描くことに迷いがないもの。
 今回、新たに参戦したのがフランスのトップ女優シャルロット・ゲンズブール。この方、最近はデンマークの鬼才ラース・フォン・トリア-監督作の常連俳優として、問題作に出まくっている。人に何言われようが、己が信じた道を突き進むその姿勢がかっけー! 惚れ直したぜ、ゲンズブール姐さん。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
原作:デリフィーヌ・クーラン 『フランスに捧げるサンバ』
出演:オマール・シー、シャルロット・ゲンズブール
12月26日(金)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美