『薄氷の殺人』 “映画的な瞬間”に満ちた作品


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 ベルリン映画祭で金熊賞を受賞したクライム・サスペンスだ。監督は、中国の新鋭ディアオ・イーナン。偏見かもしれないが、金熊賞よりもベネチアの金獅子賞の方が似つかわしい気がする。殺人事件やファムファタールの存在がもたらすジャンル映画的な空気もそうだが、何より先鋭性に富んだ作家性の強い映画だから。

 舞台は、2004年の中国北部の都市。5年前に起きた事件と似た手口の連続バラバラ殺人事件が発生し、元刑事の主人公が、容疑者である、夫を亡くした若く美しい婦人に引かれてゆく…。
 一言でいうなら、“映画的な瞬間”に満ちた作品だ。例えば突然開く傘や転がる空きビン、湯気や蒸気や白い息、赤い光源の頻出、観覧車、白昼の花火など。ただし、いずれも既視感が伴う。ゴダールやオーソン・ウェルズ、アレクセイ・ゲルマン……アクション絡みではタランティーノや北野武の名前を思い出さずにはいられない。
 だが、もはやオリジナルの手法や撮り方を開発することなど不可能な現代にあって、優れた映画監督の資質とは、良いものを見極め、そのエッセンスを自らのフォーマットの中で再現する能力に他ならない。観客の想像の上を行くやり方で、つまりはタランティーノや北野武のように人の死を演出できるこの監督の力量は、十分それに値する。アジアからまた一人、すごい才能が現れた。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:ディアオ・イーナン
出演:リャオ・ファン、グイ・ルンメイ
1月10日(土)から全国順次公開
(共同通信)
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。

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外山 真也