『ジミー、野を駆ける伝説』


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抑圧に屈せず、信念を通した男
 元アルコール依存症の男性に犯罪を繰り返す若者たち、アイルランド紛争の犠牲者など、底辺で苦しむ人たちにも優しい目を向け、歴史や現代を鮮やかに切り取ってきた英国の名匠ケン・ローチ監督。『麦の穂をゆらす風』でカンヌ国際映画祭の最高賞を受賞するなど名誉も得て、78歳と高齢にもなったのにその信念は変わらず。

今回も名も無き英雄にスポットを当て、権力の横暴を見せつける。と、書くと小難しい話だと思われそうだが、語り口は、先のNHK紅白歌合戦で『ピースとハイライト』を歌って平和を訴えたサザンオールスターズのようにウイットに富んで軽やか。
 主人公のジミー・グラルトンなる人物。あまり文献は残ってないようだが、アイルランドで実在した活動家だという。彼は、周囲に娯楽施設も何もない片田舎で、地元の人が芸術やスポーツを学び、政治問題も語り合える集会所を建築。ところがこれが、厳格なカトリック教徒社会では「教会以外の人間が教育に携わるなんてけしからん」と大問題に。1930年代の共産主義思想への脅威も相まって、ジミーはアカと流布し、暴力を使って排除しようとする。そんな抑圧にも屈せず、信念を通した男の生きざまを描いている。そう、まるでローチ監督の気質をそのまんま表したような作品なのだ。
 しかし欧州は、性的虐待などカトリック教会の闇を暴く作品が非常に多い。どんな人間も権力を手にすると勘違いするのかね。聖職者も人間なんだなとしみじみ。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:バリー・ウォード、フランシス・マギー
1月17日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美