『アゲイン 28年目の甲子園』


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素晴らしい脚本に憎いキャスティング
 甲子園―。阪神タイガース・ファンの聖地であるだけでなく、全国の高校野球球児、いやそれをテレビ観戦していている我々ですら特別な思いがある。奇しくも日本統治下時代の台湾を舞台に、嘉義農林学校が甲子園出場を果たした実話を描いた『KANO』も台湾での大ヒットという実績を持って1月24日に日本公開だ。

 しかし考えてみれば、甲子園の土を踏めなかった元球児の方が圧倒的に多い。そんな報われなかった思いをかなえる場として2004年にはじまったマスターズ甲子園を舞台にしたヒューマン・ドラマだ。甲子園と聞いただけで、彼らの悔しさも夢も、流した汗の匂いまでも想像できる我々は、涙腺が決壊するに違いない。
 だって、不祥事を犯して夢を断たれた元球児たちが主人公ですゾ。40歳も超えて立派な社会人となったはずなのに、いまだその傷を抱えて生きていた。そんな彼らが、東日本大震災の犠牲者となった仲間の娘の呼びかけで再集結。当時、言えなかった思いをぶつけ合いながら再び甲子園を目指す展開だ。そこに、徐々に明かされていく不祥事の真相というサスペンス的要素も加わって、マスターズ甲子園がクライマックスだと分かっていても飽きさせない。素晴らしい脚本。
 そしてヒロインの波瑠を筆頭に、工藤阿須加と気鋭の若手の配役がフレッシュで良い。『ルーズヴェルト・ゲーム』で注目の工藤君は、あの名電高のエースだった工藤公康の息子ですよ。憎いキャスティングだねぇ。★★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:大森寿美男
原作:重松清
出演:中井貴一、波瑠、和久井映見、柳葉敏郎
1月17日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)重松清/集英社 (C)2015「アゲイン」製作委員会
中山治美