『二重生活』 作風にどこか村上春樹的なにおい


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 ロウ・イエは、ジャ・ジャンクーと同じ中国第6世代の監督である。そして、同じように海外で評価が高く、多くの作品を海外資本で撮っている。だが日本では、ジャ・ジャンクーほどの人気を得られていないのはなぜだろう?

 恐らく、その才能がジャ・ジャンクーほどアカデミックではないためだろう。露骨な暴力や性描写も要因のはずだし、達者過ぎるテクニックが時に過剰さにつながる点(本作で言うと、謎解きシーンのスローモーションが典型例)もマイナス材料に違いない。今回もある意味とても小器用な映画で、サスペンスとメロドラマを行き来するかのようなジャンル映画的な味わいに特徴がある。
 都会に暮らすミドルクラスの夫婦が主人公。女の子をもうけて幸せな家庭を築いていたが、夫には男の子を産んだ愛人との間に母親公認のもう一つの家庭があった。そんな中国の一人っ子政策の弊害という問題に、冒頭で起きた交通事故が殺人かもしれないという謎が絡まる。
 手持ちカメラを駆使した畳みかける寄りのカットの連鎖が、臨場感と豊かなサスペンスを生み、引き画の流麗なクレーン移動や俯瞰カットが、そこに荘厳さを付加している。うまい上に作家性も強固なのだ。しかも、その作風にはどこか村上春樹的なにおいも感じられるだけに、日本でももっと評価されていい監督である。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:ロウ・イエ
出演:ハオ・レイ、チン・ハオ、チー・シー
1月24日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

外山真也