『深夜食堂』 原作の世界観を保ちつつ今を切り取る


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 アジアで大人気とは聞いていた。昨年、台湾を旅した時のこと。小さな駅のキオスクに原作である安部夜郎の同名コミックが置かれていて驚いた。韓国ではミュージカル版も上演されたらしい。それもこれも、第3シリーズまで放映された連続ドラマがネット社会の恩恵を受けて普及したワケだが、どうやら外国人から見ると、狭いスペースで肩寄せ合って飲んでいるのが、とても日本的に見えるようだ。

 そこで展開されるのは、社会で肩肘張って生きる大人たちの悲喜こもごも。そんな疲れた大人たちの心と胃袋を小林薫演じる職人かたぎのマスターが癒やしていく。現代の救世主的存在に思えるんだろうなー。筆者だって、クサクサした時に「めしや」に寄って、グチの一つもこぼしたいわ。
 そんな、しっとり大人のドラマを作り上げたのが映画人というのも本作のウリの一つ。今回はまさに満を持しての映画化だが、だからと言って奇をてらわず、かつ骨壷忘れ物事件を縦軸に、3つのドラマを絶妙に交錯させている。亡くなった愛人の遺産をもらえなかったたまこの生きざま、「めしや」で無銭飲食を働いた女料理人の事情、惚れたボランティア女性を追って上京してきた福島出身男性の胸の内。原作の世界観を保ちつつ、さりげなく今を切り取る気骨さに惚れる。
 疲れて家に帰って観賞するのもいいけど、やっぱり本作は映画館の暗闇でじっくり味わうのに最適。こりゃまたアジアのみならず世界で人気が出ちゃうわな。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:松岡錠司
脚本:真辺克彦
出演:小林薫、田中裕子、オダギリジョーほか
1月31日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)2015 安倍夜郎・小学館/映画「深夜食堂」製作委員会
中山治美