『聞き出す力』吉田豪著 格闘技としてのインタビュー術


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 「プロインタビュアー」を自称する著者が、人から話を聞き出す極意を披露――というマニュアル本の体裁を取っているが、むしろ芸能界や格闘技界にうごめく人々への取材体験をもとにつづった爆笑エッセーといったほうがいい。

 だいたい玉置浩二&青田典子夫妻のベッドイン・インタビューとか、北海道のラブホテルでプロレスラー橋本真也に話を聞くとかシチュエーションがあまりにとっぴ。さらに小林旭にやくざとの黒い交際について聞き、三国連太郎にイチモツのサイズを尋ねるなど、狙いどころが普通ではない。
 著者にとってインタビューは格闘技に近い。戦いは取材前から始まっている。徹底した事前調査を基に相手を驚かせる隠し情報を仕込む。最初にきわどい質問をかまして真剣勝負であることを伝える。用意した決めの問いを繰り出した瞬間、一気に間合いを詰めて自分に有利な展開に持ち込む。そこから整形疑惑なり暴力団との癒着なりシモネタなりタブーの領域に果敢に切り込んでいく。
 その極意は相手に心から興味を持つ、相手をとにかく肯定する、いいリアクションをする――など極めてまっとうなのだが、「技術的なことがどうだというよりも、どんな危機的状況でも動じず、流れに身を任せることが大きい」という。ここまで来ると、精神修養を要する武道の趣すら漂う。
 巻末に収録した阿川佐和子との対談では、インタビューをテーマに互いにインタビューしあっている。達人同士の一騎打ちの感がある。
 (日本文芸社 800円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)

聞き出す力
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