面白さを味わい尽くす
うまい料理は「うまい!」と口に出すことで、よりうまくなる。いかにうまいかをうまく説明すれば、いっそううまくなる。ということで、本書は娯楽映画の金字塔「サウンド・オブ・ミュージック」の面白さをあらためて味わい尽くそうというのである。
著者は映画学およびドイツ文化史を専門とする大学のセンセイ。でも難しいことは一切言わず、資料を渉猟し、ロケ現場に足を運び、脚本・演出・音楽・演技の細部に目を凝らして、その魅力をつづっていく。そして実話→主人公マリアの自伝→ドイツでの映画化→ミュージカル化→米国での映画化という段階を経るうちに、この物語がいかに大衆にアピールするよう洗練されていったかを跡付ける。
詳述される撮影現場、カメラワーク、楽曲の歌詞・曲調をファンなら鮮やかに追体験できるだろう。加えてトリビアルな情報も盛りだくさん。トラップ大佐と修道院長の歌声は吹き替えだとか、『ドレミの歌』はハ長調ではなく変ロ長調で歌われているとか、マリアと大佐が愛を告白するナンバー『何かいいこと』の作詞だけは作曲家がしたとか。
著者がとくに注意を促すのは、敵役である大佐の婚約者役エレナー・パーカーの存在だ。彼女の卓抜な演技がこの映画の魅力に大きく貢献しているという。
といっても映画を見ていない読者には???だろう。そう、本書はファンのファンによるファンのための一書。最終章はザルツブルクのロケ地ガイドまでしてくれる。
(平凡社新書 780円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)
平凡社
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