【島人の目】老共産主義者の一徹


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 ことし6月で90歳になるイタリアのナポリターノ大統領が、年齢を理由に任期途中の1月14日に辞任した。同大統領は1期目7年の任期が終わろうとしていた2013年、強く請われて2期目の大統領選に出馬した。

 イタリアは当時、財政危機に端を発した政治混迷が続き、総選挙を経ても政権が樹立できない異常事態に陥っていた。そこに新大統領決定選挙が実施されたが、政治混乱がたたってまたもや事態が紛糾し、次期大統領がなかなか決まらなかった。
 事実上政府もなく、大統領も存在しないままではイタリア共和国は崩壊してしまいかねない。強い危機感を抱いた議会は、高齢のため固く引退の意思表示をしていたナポリターノ大統領に泣きつき、立候補を要請した。大統領は固辞し続けたが、最後は負けて「仕方がない。私には国に対する責任がある」と発言して立候補。圧倒的な支持を受けて当選した。
 87歳という高齢での当選、また2期連続の大統領就任も史上初めてのことだった。だが何よりも国民は、立候補に際して大統領がつぶやいた「私には国に対する責任がある」という言葉に、あらためて彼の誠実な人柄を認め、同時に愛国心を刺激され、感銘した。
 イタリア人ではない僕は、ナポリターノ大統領が筋金入りの共産主義者である事実にも瞠目(どうもく)した。政治体制としての共産主義には、僕は懐疑を通り越して否定的だが、その思想のうちの弱者に寄り添う形と平等の哲学には共感する。そしてそれはもしかすると、私利私欲に無縁だった老大統領の、ぶれない美質の形成にも資したのではないか、と考えて強い感慨を覚えるのである。
(仲宗根雅則、TVディレクター)