『フォックスキャッチャー』 事件を基に人間の闇をあぶり出す


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 映画『カポーティ』で主演の故フィリップ・シーモア・ホフマンに米アカデミー賞主演男優賞をもたらしたベネット・ミラー監督。再び、実在の事件を基に、真相を追求しながら人間の深い闇をあぶり出す。

 本作が描くのは、1996年11月に起こった、化学メーカー「デュポン社」の御曹司でありレスリングチーム「フォックスキャッチャー」のオーナーでもあったジョン・デュポンが、チームのコーチであり、元オリンピック金メダリストのデイヴ・シュルツを銃殺した事件。母親に認められたいとする御曹司の歪んだ愛情と虚栄心、兄デイヴに嫉妬心を燃やす現役選手の弟マークとの確執、五輪での予期せぬ敗退。それぞれの鬱積したものが悲劇を生み出すまでを、スリリングに描く。
 下手すれば、内輪のモメ事で終わってしまいそうな事件だ。だが、デュポン家が南北戦争で大を成したという歴史的背景や、フォックスキャッチャー・ファームがその激戦地だった場所にあることを強調し、強き米国の理想から落ちこぼれた人たちによる事件であることをにおわす。米国映画ではたまに『ツリー・オブ・ライフ』や『6才のボクが、大人になるまで。』のように、ガッチガチの軍国主義おやじが登場して暴走するのだが、本作もまた、アメリカの影を写し出している。
 主演のスティーヴ・カレルは、米アカデミー賞で主演男優賞にノミネート。『40歳の童貞男』のイメージからは程遠い不気味なキャラクターに、背筋がゾクッ。今年は激戦なのでムリかと思うので、中山賞をあげる。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:ベネット・ミラー
脚本:E・マックス・フライ、ダン・ファターマン
出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム
2月14日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き
(共同通信)

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中山治美