『リトル・フォレスト 冬・春』 女優・橋本愛の転機となる作品


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 岩手の山里で、自給自足生活を営む主人公・いち子の日常を、約1年にわたってオールロケした本作。「夏・秋」編に続いての公開だ。原作は五十嵐大介の同名コミックで、作者の実体験を基にしているという。映画で田舎暮らしを体験するのは、若手注目株の橋本愛。役者にとって、転機となる作品との出合いが必ずあるものだが、彼女にとってはまさに本作がそうだったのでは?

 撮影は、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で脚光を浴びた直後。主人公・いち子は、一度は都会へ出たものの居場所が見つからず、岩手に舞い戻ってきた設定だ。そんな設定が、当時の彼女の心境とシンクロしたのか? いち子が自然と向き合い、日々の暮らしを見つめ直すことで心の浄化を図ったように、彼女の表情も季節を追うごとに柔らかく、そしてカメラの存在を忘れたかのように自然になっていく。
 つまり本作は、女優・橋本愛の成長の記録でもある。食い意地が張っていて食映画をくまなく観ている筆者ですら、料理に目もくれず彼女の表情の変化に見入ってしまった。
 彼女は本作の撮影で食事が美味しすぎて、ちょっと太ったらしい。劇中に登場する猫も、1年で丸々と肥えた。百の言葉よりも、橋本の身体そのものが、この映画の本質を物語っているのだ。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:森淳一
撮影:小野寺幸浩
出演:橋本愛、三浦貴大、松岡茉優
2月14日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き
(共同通信)

(C)「リトル・フォレスト」製作委員会
中山治美