松居大悟監督『ワンダフルワールドエンド』


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ベルリンの観客から極上の反応
▼開催中の第65回ベルリン国際映画祭(2月5日~15日)で、松居大悟監督の新作『ワンダフルワールドエンド』が11日夜(日本時間12日未明)、海外初上映された。筆者の取材経験に照らしても、ベルリンを長年見ている方に聞いても、観客の反応が掛け値なしにめったにないほど上々だったため、ここに書かずにいられない。松居監督は泣いてしまうのをこらえながら登壇した。

▼会場でまず驚いたのは観客の数。約1100席もある大きな会場がほぼ満員。日本人の姿はちらほらで、つまりは監督・出演者のことをほぼ知らず、作品がどの程度満足させてくれそうかなど見当がつかなくても、未知との遭遇をしてみようという人がこんなにいる。

▼主演は橋本愛と新人の蒼波純。橋本は売れない17歳のモデル詩織役で、自分でiPhoneを使ったネット中継(ツイキャス)をしては、ファンを増やそうともがいている。蒼波演じる亜弓は13歳で、詩織の追っかけ。詩織が男と同棲している部屋に、亜弓が成り行きで住み始め、3人の関係がごちゃごちゃとして…。
 「新進気鋭感を出してやろうと思ったんです」という松居監督は、SNSの画面をふんだんに本作に盛り込んだ。主役2人はゴスロリ姿も披露している。

▼新宿武蔵野館(東京)で本作を見た際は、観客は自分の反応を表に出すことを抑えがちだったが、ベルリンでは爆笑と食い入るように見る沈黙の繰り返し。「観客が得体の知れないものを見ている感じで、その中に一緒にいられて気持ちよかった」と松居監督。
 本編が終わりエンドロールが流れ出すと、満場の拍手が湧き起こり、あちこちから「フーッ!」と興奮の声。一番の驚きはその直後。観客同士が早速映画について話し始め、エンドロールの間ずっと、ザワザワが止まらず膨らんでいった。映画にとってこんなに幸せな瞬間があるだろうか。そうして登壇した監督のQ&Aタイムの盛り上がりは言うまでもない。
▼ベルリン出品は監督自身の熱と行動で勝ち取った。昨年秋、都内のホテルに映画祭のディレクターらが宿泊中との情報を聞いた監督は、自分で今作に英語字幕を入れ、DVDに焼いてホテルへ。「フロントの人に聞いて、出てくるのをロビーで待って、誰が誰なのか全然知らないけど、片っ端からDVDを渡したんですよ」。そして招待されたのが14歳~17歳の子どもたちが審査員を務める「ジェネレーション14プラス」部門。
 「大人が『良い』と言ったものが良いみたいなことに逆らいたい思いがある」という監督に、うってつけの部門だ。受賞発表は13日夜(日本時間14日未明)。
▼本欄で昨年6月に“ひどく推薦”した『スイートプールサイド』や、『アフロ田中』など、松居監督は、女の気持ちなんか全然分かんねぇ、という男子を描いてきた。だが今作は違う。劇中歌や主題歌を歌うシンガー・ソングライター大森靖子からボコボコにダメ出しを受けながら女子2人の気持ちを脚本にしていったそうだ。
 しかも次作『私たちのハァハァ』(夏公開)は女子高生4人が主役。いったいどうした松居大悟? 聞いてみると「男に飽きたんです。底が知れすぎて」。ナイス。(敬称略)
(宮崎晃の「瀕死に効くエンタメ」=共同通信記者)
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)

ベルリン国際映画祭の上映会場であいさつする松居大悟監督=ベルリン(共同)
宮崎晃