『天才たちの日課』メイソン・カリー著


社会
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小川志津子

生きる。それ以外は、自由!

 ひとりで自宅で過ごしている人なら、みんな身に覚えがあるだろう。ああ今日もだらだらしてしまった。テレビ観ちゃった。まだなんにもしてないのに日が暮れてきた。仕事したくないなー、ミヤネ屋も終わっちゃうなー、とりあえず晩ごはん考えるかなー。

 食材を買いに、駅前まで出る。すると、帰宅ラッシュの人波が、わんさか出てくる。私よりずっと早起きで、私がのそのそ起き上がった頃にはすでに会社で仕事についていた人たちだ。あああごめんなさい、私今日何もしてない。肩を落として家に帰る。野菜を切って、うどんか何かをすする。はああ。仕事するかなあ……好きなテレビ始まっちゃったなあ……
 こんな鬱屈を胸の内にためている人、必読の一冊である。何せコンセプトが画期的である。モーツァルトやベートーベン、アーサー・ミラーに村上春樹、世界に名だたる作家やら芸術家やら学者やら俳優やらが、毎日をいかに過ごしていたかを、161人分並べてあるのだ。
 この、「ただただ並べてある」感がいい。「この人は早起きしてたからこんなに元気」「だからあなたも早起きしなさいね」とかではなく、ただ、資料に基づく事実のみが、淡々と並べられている。
 そして、読むと、みんな案外自由だってことも知る。起きたらまずお酒を飲む人がいる。仕事時間は1日2~3時間で、あとは友人や妻や恋人とごはんを食べていたり、体づくりにいそしんでいたり、趣味に興じていたりする(もちろんある程度の食いぶちを得てこそだろうが)。なんだ、そうか。そうなんだ。そんなつぶやきが、ページをめくるたびに、頭の中でぷちんぷちんとはじける。
 時間の過ごし方は、要するに、人生の使い方である。それをどうするかは、その人本人の自由なのである。そんなごく当たり前のことに、びっくりしている自分がいる。私の時間は、私の時間だ。要は、私が大切だと思っているものを、大切にすればいいのだ。これは、人生をむしばむ若干の自己嫌悪を、ちょっぴり軽くしてくれる本なのだ。
 (フィルムアート社 1800円+税)=小川志津子
(共同通信)
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小川志津子のプロフィル
 おがわ・しづこ 1973年神奈川県出身。フリーライター。第2次ベビーブームのピーク年に生まれ、受験という受験が過酷に行き過ぎ、社会に出たとたんにバブルがはじけ、どんな波にも乗りきれないまま40代に突入。それでも幸せ探しはやめません。

天才たちの日課  クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々
メイソン・カリー
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