『アメリカン・スナイパー』


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“覗き見る行為”と“扉”についての映画

 イーストウッドの監督最新作は、米軍史上最多記録の160人を射殺した伝説的な狙撃手クリス・カイルの自伝に基づく実話だ。イーストウッドの刻印が薄かった前作『ジャージー・ボーイズ』から一転、今回は水を得た魚のよう。戦争映画としての醍醐味を存分に満たしながらも、紛れもない“作家”の映画に仕上げている。

 本作に対する評価は、戦闘シーンの緊張感と、エンドロールが始まると同時に流れるテロップに集中しているように思える。だが、イーストウッドの真骨頂は、むしろその直前のカットにこそある。出かける夫の後ろ姿を見つめながら妻が玄関の扉を閉める、実質的なラストカット。そこに本作の全てが集約されているから。つまり、これは“覗き見る行為”と“扉”についての映画なのだ。
 まず、覗き見る行為とは、言うまでもなくライフルのスコープを覗く主人公のふるまいである。敵をひそかに見つめ続けた夫は、最後に背後から妻に見つめられるのだ。そして、市街戦中心の現代の戦争を描く際にイーストウッドが注目したのは、扉という最強の映画的アイテムだった。本作の兵士たちはそれこそが任務だと思い込んでいるかのように、ひたすら扉(ドア、戸)を開け続ける。砂嵐の撤退シーンで、自動車のドアが果たす役割も絶大だ。
 それら全てをラストカットに象徴させた上で、さりげなく嫌な予感まで忍ばせるイーストウッドの野心に感服! 彼の監督史上でも最良のエンディングだろう。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー
2月21日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也