『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』


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繊細な映像で感情をすくい取る

 奥能登の何にもない岬に立つコーヒー店を舞台に、ワケありな方々が織りなすヒューマン・ドラマ。先に公開された吉永小百合主演『ふしぎな岬の物語』との類似性がひそかに話題となっていたが、全くの別物だ。

 恐らくこれも、これまでの日本映画と同様に作っていたら、感動をあおった凡庸な映画になっていたでしょう。だが、台湾の新鋭監督を起用して正解。説明的なセリフを省き、映像で登場人物が置かれている状況や感情をすくい取っていく手法は観客の想像をかき立てる。かつ、被写体とカメラの付かず離れずの距離感は、彼らの生活をそっと見守っているかのようで、ほっこりとした優しさまで伝わってくる。まるで、コーヒーの香りまで漂ってくるかのようだ。
 物語は、船で遭難した父の帰りを静かに待つコーヒー店の主・岬と、その目の前に建つ寂れた旅館で暮らす母子たちが出会い、それぞれが人生の次の一歩を踏み出すまでの、ちょっとした交流を描いている。だがそれは、彼らにとっては人生の転機とも言える遭遇で、互いの存在が心の隙間を埋めて、新たな希望を植え付ける。
 正直、見やすい映画ではないかもしれない。岬がコーヒー店を営んでいる説明はないし、何十年も前に生き別れた父親への思いも、曖昧なままだ。映像は極めて繊細だが、実は、「捉え方は観客の自由」という大胆さ。この監督の太っ腹な姿勢がまた、本作の魅力でもあるのだ。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:姜秀瓊(チアン・ショウチョン)
脚本:柿木奈子
出演:永作博美、佐々木希
2月28日(土)から全国公開
(共同通信)
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。

(C)2015「さいはてにて」製作委員会
中山 治美