『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』


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ファヴロー君はダメ人間が得意

 『アイアンマン』シリーズのジョン・ファヴロー監督が、制作・監督・脚本・主演を務めたコメディー。と、一応分かりやすく書いたものの、筆者の中では『スウィンガーズ』の脚本家で彼を買っていて、この映画が好き過ぎて来日時に取材したのだった。

 その「好き」という感覚は間違いじゃなかったと、本作で確信。『スウィンガーズ』は失恋男のグダグダした話で、本作も一流シェフがオーナーとひと騒動起こして、フードトラックから再生を図る話。両方とも主人公のセリフはほぼグチ。このネガティブ発言を笑いに変えて、かつ物語として成立させちゃう技量はただもんじゃない。つまりこの人、ヒーローを描くよりダメ人間を描く方が得意なんだな。ファヴロー君、おかえり!と言いたい。
 主人公が一度どん底に落ちて這い上がる展開は良くあるっちゃ、ある。でも、そこにTwitterで発信した言葉が事態をさらに悪化させるという現代性や、フードトラックで米国を横断して、その土地土地の食文化や風景を盛り込むというロードムービーとしての魅力、さらに父子物語としての面白さまで盛り込み、見応えは十分。なんと言ってもファヴロー君の料理の腕前が素晴らしく、この虚構を説得力あるものに変えている。さすが監督! 己の演出にも厳しいですな。
 このファヴロー君の才能にひかれて、名優ダスティン・ホフマンら著名俳優も出演。太っちょでむさ苦しいルックスですが、劇中のシェフともども、ファヴロー君も愛されキャラですなー。★★★★★(中山治美)

 【データ】
製作・監督・脚本・主演:ジョン・ファヴロー
撮影監督:クレイマー・モーゲンソー
出演:ソフィア・ベルガラ、ジョン・レグイザモ
2月28日(土)から全国公開
(共同通信)
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。

シェフ 三ツ星フードトラック始めました
中山 治美